[2311] 新しい作品の完成(44) 筝歌「鳥の詩・晏晏」(作詩・高橋節郎)

  • 2023.03.20 Monday
  • 11:36

❖ 記念館入口に掲げられた詞章を 筝歌に 

・松本市から北上するJR大糸線に沿った一帯を、

 安曇野アヅミノと呼び、清冽な湧水のもとワサビ

 栽培が盛んな地方ですが、日本漆芸界を代表す

 る文化功労者・高橋節郎氏の生家がJR穂高駅

 に近く現存し、その広大な敷地内の蔵や母屋は

 登録有形文化財に、そして氏の作品を展示する

 「安曇野高橋節郎記念美術館」が、敷地の一郭

 に建てられています。

 

・今月3月8日に完成したこの新曲は、約1年前の

 筝歌「桜に寄せての場合と同様、、松本市の

 25絃奏者・田中静子さんの委嘱によるもので、

 記念美術館の入口を飾る節郎氏みずからの手稿

 による「エントランス詩?」を歌詞として使い、

 弾き歌いの筝歌として、曲にまとめたものです。

 

・二十五絃のための筝歌「鳥の詩うた・晏晏あんあん

          (高橋節郎・詩)(2023)

 

・晏→アンと云う見慣れない漢字が使われていま

 すが、空が晴れて穏やかな状況を伝える文字だそうです (あとから付け加えた欧文タイトルは、

 A Bird Song "The Piece" としました)。前回の筝歌「桜に寄せて」の短歌でもそうでしたが、

 いつも平易な文字遣いをされる高橋氏が、ここでは敢えてこの文字を採用されたこだわりを、

 僕は大切にしたいと思っています。詞章の全文は、わずか5行……それは以下の通りです;

     

     いつも夢見ていたもの

     それは遠くから飛んでくる 大きな鳥に乗って

     あの山を越えることでした

     とりは幸福って ほらここにも あそこにもあるよって

     ささやくようにうたっています

 

 入館する人々は、全員が高橋氏のこの詩に迎えられ、氏の作品の世界へと歩を進めるのです。

 ………高橋節郎氏の人柄が伝わってくる、とても素晴らしい鑑賞体験だと、僕は感銘します。

 

・このあと、この曲の音楽的な個性について書くつもりでしたが、やや専門的でもあるので、

 かいつまんで……この作品で、僕は初めて筝曲の中での「3度転調」を試みました。ベート

 ーヴェンの第九「歓喜の歌」の中でも劇的な効果をもたらしている3度転調(歓喜の歌では

 ニ長調から変ロ長調へ)ですが、筝柱をいくつも即座に動かせないこの楽器では、なかなか

 困難と思っていました。しかし、目ざとい読者の方なら上掲の調弦図で気づかれたかも知れ

 ませんが、25本ある絃の調弦を少し工夫すると、その最初のステップくらいなら可能ではな

 いかと、今回の試みを行ってみたような訳です。その成果やいかに……松本市での6月10日の

 田中静子さんの演奏会で、「山桜譜」と共にこの作品も初演の予定なので、その後にご報告が

 できるものと思っています。

[2307] 新しい作品の完成 (43) フルートと低音二十五絃のための「山桜譜」(2005/2023)

  • 2023.02.21 Tuesday
  • 05:21

❖ 「湖松譜」(2000)の対となるバラード

・この曲の欧文タイトルは、”San'oufu”, 

  Ballde to Wild Cherry Brossoms

    for Flute & Contra 25-gen Koto (2023)

 です。「新しい作品」の組分けに入ってますが、

 前出のトピックなどと同様、自分の旧作に追加

 や改変を加えたものです。しかし、楽器編成も

 変わり、曲の構成にも今回はかなり手を加えて、

 旧作とは異なるメッセージの音楽となったので、

 「同一タイトル・別内容」の曲目として扱う事

 にしました。

 

・すでにマザーアース社から刊行されている僕の

 楽譜に「湖松譜」コショウフというのがあり、それ

 の続編として、楽友・麻植美弥子さんの委嘱で

 「湖松譜」の2年後に作曲提供したのが、この

 「山桜譜」(の初版)でした。どちらも先方から

 の条件で、ピッコロ+17絃筝という珍しい編成

 で作曲・提供したのですが、幸いそれぞれ無事

 に初演をすませ、その後「湖松譜」の方は出版

 に続いて、麻植さんとN響のピッコロの名手・

 菅原 潤氏によるCD(2003年 fontec)がリリースされました。その後も再演の機会がなかった

 訳ではないのですが、やはり広く流布しているとは言えない和楽器と洋楽器の組合わせなので、

 いつの間にか歳月が経ってしまいました。

 

・コロナ災禍が拡大する少し前だと思いますが、松本の田中静子さんからの提案で、「湖松譜」

 の譜面をフルートと低音25絃筝(僕はこれを、コントラバスの命名を流用し、Contra 25gen

 Kotoなどと呼んでいますが)で演奏を試みたところ、意外にとても自然に響き合い、鑑賞に耐

 える事が判ったので、それならば次回には第2作の「山桜譜」をフルートと低音25絃で聴いて

 いただこう、という事になったのですが(ここで、ようやく本題に入れました)、譜面の準備に

 思いがけず手間取る事態が生じ、先月末から数日前まで、ずっと解決に取り組んでいました。

 

・すでに演奏者の方には譜面を送った所なので、この問題は解決しました。この間の経緯について

 は、いずれ後日のレポートで。ともあれ、松本市ハーモニーホールでの初演は本年6月10日(土)

 午後7時です。チラシを得た時点で、詳細をお伝えする予定です。どうかご期待ください!

[2301] 新しい作品の完成(42) 「谷底の松のこと」(1989/2023)(声域変更による改訂新譜)

  • 2023.01.15 Sunday
  • 10:40

❖ 移調譜作成に際しての大幅改訂

・ソプラノ・バージョン

 「谷底の松のこと」(詩・河野 律)(2023)

 

・正確には新曲と呼べるものではなく、1989年

 に作曲・初演し、何度かの再演も実現、すでに

 全音楽譜出版社版「千秋次郎歌曲集 2」に収録

 されている作品なのですが、バリトンのために

 書かれた曲という事もあって、これまで一度も

 我々の関西波の会では演奏の機会がなく、残念

 に思っていました。

 

・いずれご案内の予定ですが、本年6月24日(金)

 午後の大阪フェニックスで、我々の第8回演奏

 会が予定されています。僕は決断して、この曲

 のソプラノ・バージョンを作成し、それを今回

 皆様に聴いて頂くことにしました。メンバーの

 一人・小山操さんに演奏を承諾してもらい、昨

 年12月に入ってから、移調作業を始めました。

 

・小山さんの声域を活かすには、メロディー部分

 を完全4度高く移調すれば良いことが判ったのですが、ここで思わぬ障害にぶつかりました。

 

・歌唱に合わせてピアノのパートを完全4度も高くすると、ピアノが何だか上滑りして、歌と

 ピアノが合体した緻密な歌曲の世界が現れてこないのです。いささか悩んだ末に、原曲その

 ままの移調ではなく、ピアノ・パートを、最初から作り直すことにしました。‥‥日数を費

 やしましたが、結果的にはこの方策が、自分の意欲を高めてくれたのか、より緊密度の高い

 新バージョンが、年を超えてこの三が日過ぎに完成しました。疲労困憊でしたが、自分にとっ

 ては、思い出に残る「ゆく年くる年」となりました。

 

・この曲の内容については、また項目を改めて書かせて頂くかも知れません。唐代の偉大な詩人

 白楽天(772~848)の「澗底松」を、僕が京大工学部助手を辞して、松下電器産業(現パナソ

 ニック)無線研究所に勤めていた時に知己となった同社社員・河野 律氏が訳詞・敷衍した詩篇

 です。人間不信が拡大しつつある今日的な国際状況の中で、聴いてほしいと願っている曲です。


 

[2223] 新しい作品の完成(41) 民話語り「シジミの恩返し」

  • 2022.09.25 Sunday
  • 14:50

❖ 郷土の言葉による民話音楽

・今年2月に、[2202]でお伝えしたような僕の

 郷里・福井市のわらべ歌による器楽二重奏曲

 完成してからあと、次の作品完成までに時間が

 かかり、9月上旬ようやく完了に至りました。

 3年越しのコロナ重圧によるのか、僕も昨年の

 右手の事故以来、なんとなく体調が秀れず、現

 在に至っていますが、完成が延び延びになった

 もう一つの理由は、やはり「大いに興味はある

 ものの、かなりの決意が要求される」初仕事の

 作曲でした。出来上がった作品のタイトルは;

 

・歌と福井弁の語り・筝・十七絃筝・ピアノのた

 めの 福井民話「シジミの恩返し」

・Thanks from the Shijimi Clams, a Fukui

 folktale in the local language

 

・かつて昔、僕もその大学の工学部学生だった福

 井大学に、教育学科非常勤講師として邦楽器

 奏の指導に当っている麻植美弥子さんの紹介で、

 思いがけなく、教育学部声楽研究室の梅村憲子

 准教授からのご要請があり、大学の地域貢献事業の一端として、地域の民話・わらべ歌を通じ

 て、地域への働きかけを図る、そのようなイベントを秋に開催されるとの事で、そのための

 音楽作品を作って、提供させて頂くことになりました。

 

わらべ歌については、すでにご紹介しているように、福井ソアーベ児童合唱団のために作曲

 した合唱組曲「福井わらべうた紀行」(1989)があるので、それを活用していただく事にして、

   メダマとなる民話語りの方に、僕は日本児童文学者協会の編著による「福井県の民話(2004)

    に収録されている広部英一氏の「シジミの恩返し」を選ぶ事にしました。シジミの難儀を救

 ってやった母親が、その礼として急病の息子の命を護ってもらい、神仏の利生リショウにあずかっ

 た、というだけの単純極まる言い伝えなのですが、僕が敬愛してやまない郷里の先輩・広部

 氏の文をもとに、15分という時間枠に収まるよう、物語状況をいくらか敷衍し、また地域の

 言葉(方言)が明確に現れる会話の部分を多くして、物語りの再構築(僕の分身・細江和夫

 の仕事)と、その背景に収まる3個の楽器によるBGMの作曲(千秋次郎の仕事)を並行して

 進めてゆき、何しろ一人二役をこなすので疲労困憊、冷房の室内で、熱中症には遭わずに済ん

 だものの、気がついたら、すでに8月末となっていました。最終小節を擱筆のあと、日を置か

 ず浄書に移行、演奏予定の皆さんに譜面が届いたのは9月5日、初演まで、わずか1ヶ月しか

 ありません。思えば、皆に迷惑をかけてしまいました。

 

・以上、作品完成までの経緯に時間が取られ、作品の中身については、いずれまた言及する場が

 あることでしょう。  初演は来週末、10月9日(日)13:30開演福井市内、福井大学・文京

 キャンパス内、福井大学アカデミーホール(入場無料、定員制)。

 

 

 

 

 


 

[2202] 新しい作品の完成 (40) 二重奏「福井ララバイ・おべろんや」

  • 2022.04.04 Monday
  • 03:41

❖ 福井伝承の子守歌をクラリネット小品に

・僕の郷里の福井市には、その周辺一帯を含めて

 「おべろんや ねんねんや‥‥」と言う不思議

 な言葉で始まる子守歌が伝承されていて、僕は

 それを聴いて育ったせいか、ことさら違和感は

 なく、何か懐かしい想いに捕らわれるのですが、

 メロディ自体はごく普通に、素朴で優美です。

 

・2015年以来お付合いが続いている福井市在住の

 クラリネット奏者・中曽根有希さんから昨年末、

 久々の連絡があり、2022年のリサイタルで、千

 秋作品をまた採り上げたいとの再演のお話、む

 ろん有難くお受けしたのですが、できれば何か

 短い新曲を提供できないかと考え、郷里での会

 でもあり、この「おべろんや」の旋律を素材と

 した小品を作ってみようと思いついた訳です。

 

・クラリネットとピアノのための

 「福井ララバイ・おべろんや」(2022)
・着想してから完成まであまり日時がなくて、しかも何度もお伝えしているように、この期間

 ずっと、右親指の整形手術のために右手が不自由で(幸いにもキーボード打ちだけは可能)

 何とかシミュレーション音源を1月27日に完成しましたが、ここに掲げたような手書き譜面

 を作成できたのは、2月も終りの頃(やはりフィナーレを早くから習得しておくべきだった

 と悔やんでも始まりません)ようやく演奏者に楽譜を送る事ができました。

 

・初演は来たる6月17日(金)夕刻、福井新聞社「風の森ホール」

 クラリネット・中曽根有希さん/ピアノ・松村郁代さんによるデュオ・リサイタル

 資料が届きしだい、改めてご案内します。

 

・以下は、この曲の構成に関する付随的なコメントです。長くなるので興味のある方だけ‥‥

 

・上の譜面を見て、楽譜の冒頭に筝の調弦譜が掲げてあり、不審と思われるかも知れません。

 今回の初演でピアノを担当の松村さんは、幼時から筝奏者の母君の薫陶のもとに筝演奏も

 しっかりと身につけられ、今回の会でも、筝を使った僕の作品の一つで筝パートを受け持

 って頂く事になっています。それを知ったものですから、それならばと、この新曲におい

 ても最初の部分をピアノでなく、筝とクラリネットで演奏を開始する事にしました(上掲

 のピアノ伴奏のように見えるパート、実は筝の譜面です)。もっとも、今回のような一人

 二役が無理な場合には(大抵は、その筈ですが)譜面をそのままピアノで弾き、ピアノで

 筝の雰囲気を出してこの曲が始まるのだ、と解釈すれば、それで問題ないと思います。

 

・この曲、「おべろんや」の原曲だけでは、小品とはいえ、とても5分を保つことは無理です。

 そのために、この作品をA-B-Aのように3部構成にして、Bの部分は嶺南地域の「ねんね

 しなされ」のメロディで変化をつける事にしました。上記のように、最初のA は「おべろん

 や」を筝の伴奏で演奏し、一段落したところで(クラリネットが独奏(カデンツァ)を流し

 ているスキに)筝奏者は楽器をサッと 筝からピアノに持ち替えて(とても手では持てませ

 んが)ピアニストになりすまし、失礼、ピアニストに立ち戻って、残りのB-Aを続けます。

 後のAは、もちろんピアノの音域を活かしたピアノらしい響きで進みます。なお、僕の考え

 では、タイトルこそ違え、「ねんねしなされ」も、同じ福井の別種の「おべろんや」として、

 自分たちの仲間に加えたく思っています。

 

・「おべろんや」のメロディを自分の作品に取り込むのは、これが最初ではありません。実は

 33年前、福井ソアーベ児童合唱団のために書いた組曲「福井わらべうた紀行」(1989)の9曲

   目に(当然歌詞も歌って)加えてあります。現在のところインターネットで検索しても「オ

 ベロン」だったらかなりの数のヒットがあるのに、「おべろんや」の言葉でヒットするのは

 ただ1件のみ、千秋次郎作曲「福井わらべうた紀行」の項目だけなのです。と書いてしまい

 ましたが、後でもう一度検索したら5件ほどのヒットがありました(訂正します)。しかも

 若狭の方で歌われている「おべろんや」が、冬濤フユナミさんと言う方の演奏で公開されていま

 した。著名な町田嘉章氏の採譜によるもので、これはこれで、とてもユニークな旋律で魅力

 的です。望月教授の「日本わらべうた全集」第10巻には載っていなかったので、収録漏れか

 と思います。富山には「ねんねんやおろろわい」と歌う子守歌があるみたいですが、これも

 含めて北陸の他の地域の子守歌についても、もう少し探ってみたいと思っています。

 

 

[2201] 新しい作品の完成(39) 筝歌「桜に寄せて」

  • 2022.04.03 Sunday
  • 18:07

❖ 信州に記念館のある工芸作家の短歌3首に

・2020年に制作した箏曲「序の歌」と同様に、

 二十五絃筝での弾き歌いによるこの曲は、本来

 なら、本年の冒頭にご紹介していた筈ですが、

 昨年末の不用意な右親指の骨折で、手術を伴う

 整形回復に2ヶ月余を費やし、ようやく今頃に

 なってお伝えできるに至りました。

 

・穂高に近い長野県安曇野市にある安曇野高橋節

 郎記念美術館は、現代工芸界を代表する漆芸家

 高橋節郎(1914~2007)の生家に建てられていて

   四季折々の、豊かな自然に囲まれた素晴らしい

 スポットです。

 

・これまで幾度も紹介している松本在住の筝奏者

 田中静子さんが、この美術館を訪れた際に入手

 した短歌集「うらじろ日記」は、故・高橋氏が

 制作の余暇に詠まれた短歌を、ことさら手を加

 えずに列記発刊されたものらしく、日常のかな

 使いに混じって歴史的仮名遣ひあり、古めかしい

 和歌風の詠歌の次には日常の何気ない言葉での短歌が続く、と言ったように、将に工芸一筋

 で生きて来られた氏の天衣無縫な一面が垣間見られて、歌集を見せてもらった僕も共感する

 所の多い素敵な私家集でした。ことに、桜の花が詠まれている幾首かの中に、さりげなく、

 しかも深読みのできる作歌があり、田中さんと相談の上、次の3首を筝歌の形で作曲する事

 にしました。タイトルも素朴に「桜に寄せて」‥‥週日を待たず、今年の正月末日に完成す

 る事を得ました。

 

高橋節郎の短歌による、二十五絃筝のための筝歌「桜に寄せて」(2022)

        ・山々は桜さくらの花ざかり 咲くも美くし 散るも美くし

    ・桜花 枝もたわわに咲きほこれ 短きものは花の命か

    ・今もまた昏れなむ春の夕まぐれ ものうい心誰に伝えん 

 

・百人一首の「これやこの往くも帰るも別れては‥‥」を思わせるような、心の浮き立つリズム

 を感じさせる第1首、続く第2首では明→→暗に急転する心の変貌、それを受けて第3首では

 この想いを「ものうい心」という表現に託し、暮春の情景の中に終結させる手法‥‥僕らの方

 で自由に選ばせてもらった3首なのですが、たまたま首尾一貫して、高橋氏の想いを伝える事

 が出来たのではないかと思っています。年内初演の予定ですが、決定次第またお報せします。
 

[2013] 新しい作品の完成(38)フルート合奏曲「風が運ぶ新緑の色」

  • 2020.09.26 Saturday
  • 23:50

❖ タイトル・主題展開を一新し、新作として

・僕が大阪芸術大学演奏学科に勤務していた頃、

 とくに管楽器を専攻する学生グループのために

 アレンジ物ではない自分のオリジナルな作品を

 提供して、学内学外のステージで演奏してもら

 う、そんな試みを1990年前後の数年間にわた

 って実行していた事があります。自分の音楽の

 「引き出しを増やす」という点で、これは大き

 な効果があり、学生たちにとっても、誰も知ら

 ない初めての作品に挑戦するというメリットが

 あった、と思うのですが、彼らや彼女らが卒業

 した後は、なかなか再演の機会がなく、いつか

 また活用するチャンスを、と思っていました。

 

・最近になって、旧作「風の忘れもの」(1994)

 ようなフルート・オーケストラ曲をまた作曲す

 る必要が生じた際に、その事を思い出し、以前

 から愛着のあったクラリネット8重奏曲「風の

 中の春」(1991) を素材にして、これをフルート

 のための作品に転用することを思いつきました。

 

・しかし実行に移してみると(当然、予想はしていたのですが)クラリネットとフルートでは

 音の鳴りかたがまるで異なり、音域の点でも、すぐに右から左へ、という訳にはいかない事

 が判り、コロナ感染の猛威がふるった5月6月が、毎日徒労に暮れてゆきました。(ブログ

 をアップできなくなった真の理由は、じつはこのことが原因です)。最終的には、原曲の書

 き写しみたいな事をいっさい放棄して、主要な幾つかの主題だけを借用して、あとは最初か

 ら自由に造ってゆく、と方針を一転して(いわば開き直って)作業を進める事にしました。

 

・それから後は、要所要所で立ち止まりながらも、幸い何とか筆が進み、去る9月7日深更に

 完了する事ができました。182小節、演奏時間約7分余の単楽章の小曲です。タイトルも、旧

 題から季節を進めて「風が運ぶ新緑の色」Wind Brings a Color of the Seasonal Green と 

 しました。‥‥‥ようやくこれで心がほぐれ出し、数日前からは溜まっていたブログアップの

 作業にも手を伸ばせるようになりました。まさに"with コロナ"の中での「新緑の色」でした。

 

予定では、初演が来年4月24日(金)、演奏していただくのは、次のトピックでもご案内する

 MIZUMOフルートアンサンブルの皆さん(指揮・水藻俊明氏)です。演奏者の方々に気に入

 っていただける事を、今から期待しています。

[2006] 新しい作品の完成 (37) 女声合唱曲「わが街大阪」

  • 2020.03.07 Saturday
  • 10:03

❖ 旧作の琴歌からの脱皮

・もう7年ほど以前ですが、そのころ僕もしばら

 く会員として加入していた大阪文化団体連合会

 (大文連)が、毎年「花の宴」というタイトル

 で開催する邦楽中心の合同イベントに、新曲で

 参加した事があります。この大阪大文連を介し

 て知己となった詩人・横田英子さんの作詩によ

 る「私の大阪」(2013)という華やかな箏のアン

 サンブルを背景に歌われる箏曲です。吹田メイ

 シアター中ホールでの初演の後も、何度か演奏

 者を替えて、再演されましたが、昨年になって

 また二箇所の女声コーラスの皆さんから、新曲

 を依頼されることになって、ふと、この「私の

 大阪」の楽しい情感の作品を思い出しました。

 

・日本詩人クラブ理事で大阪詩人協会での重鎮、

 ご自分でも詩誌「リヴィエール」を主宰してお

 られる横田英子さんの「私の大阪」は、委曲を

 尽くした4節から構成されている充実した歌詞

 なのですが、今回、女声合唱曲として再構築す

 るにあたっては、やはり歌詞の長さを調整する

 必要が生じました。合唱祭などでは、ステージでの演奏時間に、それぞれの催事ごとに制約

 があるのです。それを考慮して、今回の改編にあたっては、最初から思い切って、3節より

 成る詩篇として、原詩の第3と第4の節を一つにまとめ、詩想がより的確に伝わるように、

 歌詞を改訂させていただきました。こうして出来上がった天満天神→通天閣→大阪城を結ぶ

 3節歌詞をもとに、改めてピアノ伴奏付きの女声2部合唱曲を、この正月過ぎに制作しまし

 た。演奏時間は約4分ほど‥‥‥これなら、時間制約のあるステージにも安心して乗せる事

 が可能です。なお、旧作の4節歌詞の「私の大阪」(2013)との混同を避けるために、今回の

 3節歌詞の新曲には別名を付けさせていただき

   女声合唱曲「わが街大阪」(2020) 、欧文記名の場合は ”My Love Osaka"(2020)

   という記名にして、作品届けを提出しました。

 

・いずれまた、ご案内する予定ですが、この作品の初演は東大阪市では6月、豊中市では12月

 の予定で、すでにそれぞれの合唱団で、譜読みに着手しておられます。
 

[2002] 新しい作品の完成 (36) 「序の歌」

  • 2020.02.09 Sunday
  • 18:28

❖ 立原道造の名詩を箏の弾き歌いで          

前項[2001]の制作がひとまず完了した昨年12

 月22日、すでに年の瀬の気ぜわしい最中でし

 たが、大掃除もそこそこのまま、すぐにこちら

 の歌曲の制作に着手しました。松本市の楽友で

 25絃奏者の田中静子さんから、夏に依頼を受け

 ていた弾き歌いによる歌曲の作曲、テキストと

 なる詩は、田中さんからの指定で、立原道造の

 「序の歌」にしてほしい、とのこと。幸いな事

 に立原道造の詩は、僕も遥かな昔からヤミクモ

 に好きだったので、二つ返事で請け負った次第

 でしたが、実際には屈折の多い表現で、彼の詩

 の奥行きを思い知る事になりました。正月休み

 を返上しての「労務」でしたが、なんとか年が

 明けて1月7日の深夜に、8分余の箏歌に完成

 する事ができました。

 

・25絃箏のための箏歌「序の歌」

            (詩:立原道造)(2020)

 

・1939年に24歳の若さで没した立原道造、今回の

 箏歌の詞章となった「序の歌」は、彼の死後に編纂され、出版された詩集「優しき歌 ll」

 の冒頭に置かれている詩篇で、彼が好んで用いたソネットという形式で書かれています。

 我々が日常使う判りやすい言葉で、クリアに書かれているのですが、文脈を辿って行くと、時に

 難解な飛躍に遭遇し、優しい言葉の草むらの中で立ち止まってしまう、そのような不思議な影を

 伴っている詩篇です。自分が発する言葉、つまり自分そのものであると同時に、自分から離れて

 行く他者である「詩の言葉」に対する深い愛着、ほとんどナルシズムに近い情感が、この4節の

 詩型に託されていると、僕は予感するのですが、これを音楽としてまとめるに際しては、ソネ

 ットの持つ A-A-B-B という形式感から外れて、むしろ 音楽の冒頭に現れるモチーフを最後まで

 幾度も回帰させる、いわばリトルネロ(しいて書けば A-A-B-A に近いような) 形式でまとめてみ

 ました。全体の長さは約8分程度、田中さんが希望しておられた時間の長さに収まりました。チ

 ラシが刷り上がったら、再度また演奏会のご紹介をする積りです。ようやく数日前に浄書が終わ

 ったので、譜面の冒頭をご覧いただく次第です。 

[2001] 新しい作品の完成 (35) 「野菊路」

  • 2020.02.06 Thursday
  • 16:56

❖ 独奏箏のための組曲の、第2曲として

・この曲は、すでに昨年12月下旬に作曲が完了

 していたのですが、譜面の清書が大幅に遅れ、

 ようやくのご紹介となりました。

 

・独奏箏のための「野菊路」(2019)

 

トピック [1727] に掲げたように、僕は数年前

 箏演奏家・福原左和子さんのために、

 

独奏箏のための「桜落葉」(2017)

 

  という小品を書いているのですが、これとペア

  になる曲をいずれ作曲しようと思っていました。

  ずいぶん日が経ってしまいましたが、ようやく

  昨年末に時間が取れたので、何日かを費やし、

  野菊をテーマにした新曲を完成しました。桜と

  菊、もっとも桜といっても、これは晩秋の紅葉

 した桜の落葉なので、季節的には秋なので、組曲

「ふたつの秋景色」というタイトルを、この2曲

 のセットに付けてもいいかなと、考えています。

 

・2曲とも、それぞれが約4分ほどの長さで、A-B-A を基本とする3部構成。箏の調弦も、前後

 の曲で大幅に変わることがないように配慮し、弾きやすく・聴きやすい一対にまとめました。

 日本的な情趣を留めている「桜落葉」に対し、「野菊の続く歩道」は日本情趣にこだわらない

 穏やかで爽やかな午後の明るさ。‥‥‥将来、誰かさんの愛奏曲になれれば嬉しいことです。

 

・なお、この曲は来る6月5日(金)松本市ハーモニーホールにおいて、楽友の田中静子さんによって

 25絃箏バージョンのかたちで初演される予定です。

 

 

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