[2311] 新しい作品の完成(44) 筝歌「鳥の詩・晏晏」(作詩・高橋節郎)
- 2023.03.20 Monday
- 11:36
❖ 記念館入口に掲げられた詞章を 筝歌に
・松本市から北上するJR大糸線に沿った一帯を、
安曇野アヅミノと呼び、清冽な湧水のもとワサビ
栽培が盛んな地方ですが、日本漆芸界を代表す
る文化功労者・高橋節郎氏の生家がJR穂高駅
に近く現存し、その広大な敷地内の蔵や母屋は
登録有形文化財に、そして氏の作品を展示する
「安曇野高橋節郎記念美術館」が、敷地の一郭
に建てられています。
・今月3月8日に完成したこの新曲は、約1年前の
25絃奏者・田中静子さんの委嘱によるもので、
記念美術館の入口を飾る節郎氏みずからの手稿
による「エントランス詩?」を歌詞として使い、
弾き歌いの筝歌として、曲にまとめたものです。
・二十五絃のための筝歌「鳥の詩うた・晏晏あんあん」
(高橋節郎・詩)(2023)
・晏→アンと云う見慣れない漢字が使われていま
すが、空が晴れて穏やかな状況を伝える文字だそうです (あとから付け加えた欧文タイトルは、
A Bird Song "The Piece" としました)。前回の筝歌「桜に寄せて」の短歌でもそうでしたが、
いつも平易な文字遣いをされる高橋氏が、ここでは敢えてこの文字を採用されたこだわりを、
僕は大切にしたいと思っています。詞章の全文は、わずか5行……それは以下の通りです;
いつも夢見ていたもの
それは遠くから飛んでくる 大きな鳥に乗って
あの山を越えることでした
とりは幸福って ほらここにも あそこにもあるよって
ささやくようにうたっています
入館する人々は、全員が高橋氏のこの詩に迎えられ、氏の作品の世界へと歩を進めるのです。
………高橋節郎氏の人柄が伝わってくる、とても素晴らしい鑑賞体験だと、僕は感銘します。
・このあと、この曲の音楽的な個性について書くつもりでしたが、やや専門的でもあるので、
かいつまんで……この作品で、僕は初めて筝曲の中での「3度転調」を試みました。ベート
ーヴェンの第九「歓喜の歌」の中でも劇的な効果をもたらしている3度転調(歓喜の歌では
ニ長調から変ロ長調へ)ですが、筝柱をいくつも即座に動かせないこの楽器では、なかなか
困難と思っていました。しかし、目ざとい読者の方なら上掲の調弦図で気づかれたかも知れ
ませんが、25本ある絃の調弦を少し工夫すると、その最初のステップくらいなら可能ではな
いかと、今回の試みを行ってみたような訳です。その成果やいかに……松本市での6月10日の
田中静子さんの演奏会で、「山桜譜」と共にこの作品も初演の予定なので、その後にご報告が
できるものと思っています。