[1722] 新しい作品の完成 (22)

  • 2017.08.27 Sunday
  • 11:35

❖ 市民伝承オペラへの追加曲1

・和歌山県伊都郡かつらぎ町という集落には、

 ある若き女人の墓がひっそりと今日まで残っ

 ています。時は後白河法皇の院政の頃、源平

 の戦いが勃発する前の、平家全盛の時代。平

 重盛に仕える若き武将・斎藤時頼トキヨリが

 横笛ヨコブエという女性を愛してしまうので

 すが、家柄の違いを理由に父・茂頼モチヨリ

 の許しを得ることができず、若者は出家して

 後に高野山で滝口入道と呼ばれる高僧となり、

 再会も果たせぬまま、横笛もやがて尼となっ

 て高野山の麓の村で仏道の日々を送り、彼女

 が息を引き取った時、一羽の鶯となって高野

 山へ飛んで行ったという悲話が、平家物語に

 語られています。その横笛の墓が、かつらぎ

 町に残っていて、今日まで守り伝えられてき

 ているとの事。

 

・かつらぎ町在住の演出家・防野宗和氏が仕掛

 け人となって、この美しいエピソードを町民

 参加のオペラに構成しようという企画が、今

 から5年前の2012年に実現し、その時に指揮をつとめた河田早紀氏との繋がりで、台本を

 小川淳子さん、作曲を千秋次郎が受け持つ事となり、「紀州ふるさとオペラ」と名付けら

 れた2幕約2時間余のオペラを、かつらぎ総合文化会館という立派なハコモノの中で初演

 したのが2012年12月9日のこと、村人たちの役で、多くの町民の皆様の参加があり、片

 や、共催者としてかつらぎ町からの経済的な支援もあり、大成功を収める事ができました。

 

・その後も再演を望む声が町民の皆様から多く寄せられ、3年後の2015年3月22日午後に

 2回目の公演が行われました。指揮者が河田早紀氏から金正奉氏に替わり、主演歌い手も

 一部異同がありましたが、これまた大盛会の再演となりました。そしてまた2年が経ち、

 今回が第3回公演です。回を追うたびに、演出の防野宗和氏から台本の部分改定が加わり、

 今回も僕は音楽の一部手直しに加えて、2曲の追加アリアの作曲に追われました。さらに

 今回から箏合奏の皆さんが新たに伴奏アンサンブルに加わったので、従来のステージの中

 での出番を作ってあげるための工夫も必要となり、じつに7月半ばから8月半ば過ぎまで、

 仕事に掛り切りとなりました。折からの異常な猛暑に体調を崩してしまい、なかなか予定

 が捗らず、気付いたら祇園祭も天神祭も五山送り火も終わり、ツクツク法師の啼く季節に

 なっていました。幸い、総合企画者・防野宗和氏にはご迷惑をかけずに、楽譜「納品」が

 果たせたので良かったと思っています。この僕のブログ更新も、そのために遅れてしまっ

 た訳ですが、今後は、なんとか尋常な日々に戻れる事と期待しています。

 

・前置きが長くなりましたが、今回作曲を完了した2つのアリアの内の1曲目は、第1幕の

 第1場、いわばこの悲劇の発端となる場面、相愛の斎藤時頼と横笛のゴシップを、二人の

 侍女が陽気に噂しているのを、そこへ通りかかった時頼の父・茂頼モチヨリが聞きとらえ、

 さてはあのカタブツの時頼が身分高い姫君を見初めて、人の噂になっていると思い込み、

 我が家の名声も家運も高まることと有頂天になって歌う、父親のアリアです。

 

・斎藤茂頼(バリトン)のアリア 「ついに恋をした」 

 

・アリアの後半になって、これに侍女たちの歌が絡み、三重唱となるのですが、父は有頂天、

 事情を知っている侍女たち二人は、これは大変な勘違い、将来どうなることかとヤキモキ、

 互いの方向性が異なる重唱なので、作曲にとても苦労しました。明るい音楽と不安な音楽と

 を同時進行させる必要があるからです。しかし、途中で侍女たちがそっと去って行き、後は

 父が息子の将来を頼もしく(あくまでも勘違いなのですが)歌い納めるところで、このシー

 ンは終わり、次の父子断絶の壮絶なシーンへと続きます。作曲は別の委嘱作「旅はるか空い

 ろの夢」が完了した7月17日以降から始まり、8月8日に漸く完成しました。 
 

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